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【5回】接着の基礎知識

現代社会は、まさにものづくりの時代です。
建造物や車、服、家電、そして食べ物(調理品)も、私たちが日常に触れる多くのものが「製品」と言えます。
そこでは、品質を前提に”早く安く作る”ための技術競争が行われています。
そうしたモノづくりの重要な技術の一つが、接着剤の活用です。
接着剤は、きわめて大ざっぱに言えば、「種々の高分子材料を溶剤に溶かした、あるいは混合させたもの」です。
これまでの本コラムをお読み頂いた方は、「ははぁ、それで粘度が関わるのか」と、ピンと来るのではないでしょうか。
実際、この接着剤の開発や品質管理において、粘度計測は重要な役割を担っています。

それでは、私たちの身の回りの製品と接着、そして粘度との関わりについて見ていきましょう。
今回はまず、接着の基礎知識について概観したいと思います。

接着によって作られる家?

私たちが手にするほとんどの製品は、構成部品の組み合わせによって出来ています。
家電製品だけでなく、自動車でも家屋でも服でもそれは同様です。
したがって、組立時間を短縮できれば、その製品にとって納期やコスト面で大きなアドバンテージです。

例えば家屋。昔は大工さんという専門の技術者が、まさに手作りで組み上げていました。
こうした匠達が作った家は価値があるものですが、やはり相応の費用や期間がかかってしまいます。

では、製品としての家屋を考えた時、全体の作業工数を減らして他社との競争優位を得るには、どのような基礎技術が必要でしょうか?

その必殺ワザの1つが、部品の接着なのです。
出来るだけ構成部品をユニット化し、現場では加工レスで組み合わせる。
そして接着で固定??、単純に言えばそんな工程です。
現代の接着剤は、強度や耐久性において極めて高いレベルにあるのです。

もっともイメージし易いのが、フローリング床工事でしょう。
レール状の板それぞれの端を釘打ちしたり、寄せ木細工のように精密に組み合わせて固定するより、同等な品質が得られるなら、板材を接着して仕上げた方が効率的なのは明らかです。
他に、壁のクロスや幅木、ネダ、ドア枠、浴室タイル材の接着はもとより、骨組みや外壁の接着まで、現代工法による家屋では接着が幅広く活用されています。

ところが、さまざまな利点を持つ接着工法ですが、一面でシックハウス等の問題も生じています。
近年話題となることの多いシックハウス症候群は、接着剤や建築部材に含まれるホルムアルデヒドなど、揮発性有機化合物(VOC)が主たる要因とされています。
VOCが部屋に放出されることで過敏な方が反応し、頭痛や吐き気のほか、さまざまな心身の不調があらわれるものです。
接着剤メーカでは発症防止のため、ホルムアルデヒド等を含まない、あるいは低濃度にした、できるだけ安全な部品・製品の開発を進めています。

接着するリクツとは?

粘度計測の話に入る前に、「接着する」についてもう少し話を続けます。
そもそも、モノがくっつくとはどういうことでしょうか。
接着とは、接着剤によって「2つの面が化学的もしくは物理的な力、またその両者によって一体化された状態」と定義されています。
そして、一体化する原理として、「機械的結合」「物理的相互作用」「化学的相互作用」の大きく3つが挙げられています。

このうち、もっとも基本的な原理とされているのが「物理的相互作用」で、接着する相互の物質(被着材)及び接着剤の、分子間の引き合う力(ファン・デル・ワールス力)です。
それぞれ分子が安定的に引き合っているために、相互の物質は離れないというわけです。

直感的に理解しやすいのが「機械的結合」です。
被着材相互の表面に存在する微小な孔に接着剤が入り込み、そこで固まることで両者が抜けなくなるというものです。
これは「アンカー効果(投錨効果)」と呼ばれています。

接着にはこうした複数の原理が関係し、実際にくっついている状態でもその仕組みは簡単に特定できないようです。

一方、接着剤にはどのような種類があるのでしょうか。
これについては、溶剤に溶けている(混合する)主材料で分類するのが一般的です。
主成分が無機系か有機系か、有機系の中でも天然系か合成系か、さらに合成系の中でも主成分である高分子材料の性質によって分けられています。
ここでは粘度との関わりを見る基礎知識として、硬化方法による違いから接着剤の種類を押さえておきましょう。

(1)溶剤蒸発形
溶剤が蒸発することによって固まるタイプ。主流である有機溶剤では、硬化と引き換えにVOCを発生させてしまいます。

(2)水蒸発形
水分の蒸発や吸収などによって固まるものです。木工用ボンドなどが代表で、エマルジョン系とラテックス系があります。
エマルジョンとは、マヨネーズのように油分と水分が分離しない状態のもの。
“界面活性剤”の働きにより、高分子材料を安定的に水の中に分散させています。

(3)ホットメルト
冷えると固まるタイプの接着剤。製本で使われる糊(のり)、ハンダやアスファルトなどがこの類です。

(4)化学反応形
触媒の添加や湿気等の要因で硬化するものです。

塗布性に優れた接着剤の開発

接着剤の活用がモノづくりの主要技法になったことで、単に貼り合わせるだけではなく、そこに多様な性質や機能を付加することが求められるようになりました。

例えば、硬化のスピードや硬化後の性質などです。
カーテンウォール工法におけるシーリング材なども、多様な接着剤の一種です。
カーテンウォール工法とは、定型パーツ化された外壁を骨組みに組み付けていくもの。
全面ガラス張りのビルなどがありますが、これなどはカーテンウォール工法の代表例と言えます。
ここでのシーリング材は、主目的であるパーツ間の水密性のほか、構造体への追随性や自身の耐久性等において、高度なクォリティとコスト性が要求されているものです。

シーリング材(接着剤全般に言えることですが)の機能としてもう一つ忘れてはならないものが、効率的な塗布性の確保。
要するに、接着剤を塗ったり注入したりする作業のし易さ、ということです。

垂直面に接着剤を塗布する場面を想像してみてください。
ユルくて、塗ったそばから垂れるようではとても作業になりません。
逆に垂れないのは良いけれど、カタ過ぎて注入や塗り延ばすのに多大な労力を必要とするのでは、これもまた作業性に問題があります。
接着という機能を満たしながら、同時に作業性の良さを合わせ持つ。
そんな接着剤に作るためには、接着剤のタレ具合、ほとんどの場合その粘度が適正に保たれていなければなりません。

さて、ようやくここで粘度計測が関わってきました。
接着剤の製造や管理には、粘度計測が重要な役割を果たします。

次回はこの当たりに焦点を絞って見ていくことにしましょう。

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